認知症

今日、母親から電話が来た。

いま、駅にいる。今日帰るつもりだったけれど、ホテルを取ったからもう一泊していく。友達が一緒にいる。心配ないよ、また連絡する。

という様な内容だった。
その声は弾んでいて、まだまだ遊び足りない少女の様で、とても楽しそうだった。
いつもの声とは全く違っていたので、本当に母親だろうかと少し心配になったが、スマホの画面には母親の名前と番号が表示されていた。

うん、分かった。また電話するように。
そう言って電話を切った。

もうすぐ80歳になろうという母親は、2日前に高熱と呼吸不全が理由で救急搬送されていた。だからいまは病院にいる筈だった。昨日、叔父から肺炎で命に別状はなく、今は個室の病室で元気そうだと知らされていた。だから本人から入院や病状についての連絡が入ったのだと思ったが、電話の内容は上記の通りだった。
これは即ち、認知症が発症したということなのだろう。

どんなに病気をしても意識だけは常にしっかりしていた母親だったので、少しショックではあったが、いままで聞いたこともない楽しそうな声に「良かった」と思ってしまった。夢を見ているのか、寝ぼけているのか、いずれにせよ楽しい夢ならいいじゃないか。

家族が認知症になってしまったという悲観的な話をよく聞くが、認知症になって悲しいのは、本当は周りの人間だけなのだろう。私のことを覚えていてくれていない。認知症になって困るのは、一緒に暮らす家族たちだけなのだろう。普通の生活を送ってくれない。外で迷惑を掛けまくっていて困る。しかし、当の本人はとても楽しいのかもしれない。ならばそれはそれでいいじゃないか。

そして認知症になる原因は、現実逃避なのではないかと思い至った。母親の場合にはここ最近の(数か月前に大腿骨骨折をしてしまい)リハビリがとても辛いと言っていたから、それが原因なのだろう。

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EK

A nomadic rider and editor.
Rides a 2003 Harley-Davidson Road King, flirts with a BMW K1600B.
When not on two wheels, he trades the handlebars for a fishing rod, an airsoft gun, or a camera — always chasing the next adventure.

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