小雨の降る冬の歩道で

北風の強い冬の日。
夕飯の買い出しに出掛けるために家を出た。
最寄りのスーパーまでは徒歩一分ほどだが、反対を向けばやはり徒歩一分ほどで海に出る。
空はどんよりと黒ずんで低く、海もそれに呼応してグレーだ。

当てもなく海沿いの道を歩く。
一キロほど歩いたらなんとなく引き返してスーパーへ行こうと目論む。
まるで天気に関わらず散歩に出たくて仕方のない犬の様に、少しの運動をしないと気が済まないカラダになってしまっている。

海沿いには若い女性のグループが横一列に並んで座り、楽しそうにしているのが見えた。
その向こうにも波打ち際でオリオンTシャツを着て踊る学生の姿があった。
沖縄にいればこの天気は寒いと感じるけれども、東京から来たのならば別に寒くもないのだろう。

適当に歩いて距離を稼ぐと、右折して海から離れる。
不意に小雨がパラついてきたので最短コースで引き返すことにした。
国道58号線に並行して走る生活道路を歩いてスーパーに向かう。

スタスタと歩いていると、向こうから車椅子が進んできているのが見えた。
気に留めずに近づくと、何故かその車椅子は歩道脇の花壇に左前輪を突っ込んで立ち往生しているように見えた。
車椅子の主は若い女性で、手首と首と視線が曲がっていた。
右手の所にジョイスティックの様なものが付いていた。

助けようか?と口パクをしながら近づくと、やはり前輪は花壇に入っていた。
横からその電動車椅子を掴んで引っ張ってみるも、ずっしりと重く動かない。
後ろに回ってきちんと持ち手を持って後ろに下げると、花壇に落ちていたタイヤが外に出た。
手を離すとその車椅子は少し前に進んだので、問題は解決したようだ。
僕はその場をあとにして元の様に歩き始めた。

彼女は必死に後ろを振り返って何かを見ようとしていた。
車椅子の後ろに掛けられていた自分の荷物が取られていないかを確認しているように見えたが、
もしかするとこちらに振り返って感謝の意を示したかったのかもしれない。
その不自由なカラダでは、こちらに向き直ることも、自由に言葉を発することもできないだろう。

不自由なカラダで動こうとしている彼女の生を感じたからだろうか、それとも良いことをして満足したのだろうか、
ほんのりと温かく不思議な気持ちになりながらも、彼女の気持ちは置き去りにして立ち去った。

自由に動けず、言葉も出せない彼女は、こんな小雨の中を、いったい何処から来て、何処へ向かっていたのだろうか。
自分の足で歩ける僕は、空虚な毎日を過ごしながら、別にいつ死んでもいいとさえ思っている。
そんな風に思っているのなら、その自由に動くカラダを私にくださいと、彼女は思うだろうか。
ならばこのカラダは、君たちのアシストする為に使えば良いのだろうか。

朝の寝床でまどろみながら見る夢を、布団から出た瞬間に忘れてしまうように、
今日の出来事も忘れ去ってしまうだろうから、気まぐれにこうやって記しておく。

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EK

A nomadic rider and editor.
Rides a 2003 Harley-Davidson Road King, flirts with a BMW K1600B.
When not on two wheels, he trades the handlebars for a fishing rod, an airsoft gun, or a camera — always chasing the next adventure.

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